『バチェラー・ジャパン』“複数人とのキス問題”をあらためて考える 恋愛番組座談会【2021年版・前編】

 男女の共同生活やデートの様子を観察し、揺れ動く恋模様を追いかける「恋愛番組」。昨今はSNSを中心とした出演者に対する誹謗中傷の問題、コロナ禍での撮影の難しさから模索する状態が続いていたが、2021年からは少しずつ変化が訪れている。リアルサウンドテックでは、様々な媒体で恋愛番組についてのコラムの執筆、出演者へのインタビューなどを行っているライター陣、Nana Numoto、佳香(かこ)、於ありさと座談会を実施。前後編にわたって2021年の恋愛番組市場を紐解いていく。

<2021年新作番組から考える、恋愛番組の現在地>

ーーまずは2021年に始まった新番組をもとに恋愛番組のトレンドを追っていければと思います。2020年はコロナ禍初年度ということもあり、新たに始まる番組が少なかったのですが、今年から新しいものが増えています。まず5月には『隣の恋は青く見える』(ABEMA)が始まりました。

『隣の恋は青く見える』(ABEMA)
悩めるカップルが合意のもと一時的に交際関係を解消し、恋愛フリーの状態で過ごす1週間の“公認浮気“生活を送る。 共同生活の先に待っているのは“復縁“か“決別“か、はたまた“新しい恋“かを見極める恋愛番組。

佳香(かこ)(以下、佳香):これまでの恋愛番組にはないタイプの番組ですよね。そして一番リアル。これまでの恋愛番組のイメージは、「初めての出会いから恋愛に発展していく」というものが多かった気がしますが、既存のカップルに焦点をあてて、そのネックになっていることを深掘っていく番組は新しいですよね。シーズン2も配信されていましたし、その生々しさが人気の理由かもしれません。

ーー7月には芸能人カップルの“結婚生活”が観られると話題の『私たち結婚しました』(ABEMA 以下、『わた婚』)が始まりました。シーズン1には野村周平さん、さとうほなみさん、シーズン2にはトリンドル玲奈さん、浅香航大さんなどテレビでも活躍する芸能人たちが出演していて、ここまでビッグネームの方々が恋愛番組に登場するのはまた珍しい番組だと思います。

『私たち結婚しました』(ABEMA)
「もしも、あの芸能人たちが結婚したら……!?」をテーマに芸能人が夫婦となり、7日間の結婚生活を観察。夫婦としてさまざまな共同作業を乗り越える中で、どんな関係を築くのかを追いかけていく。

Nana Numoto(以下、Numoto):シーズン2に浅香航大さんが出演するって聞いたときは驚きました!長く応援していたので恋愛している素の顔を観られるのはたまらないです。

ーー“推しメン”が恋愛番組に出るのってオタクとしてはどういう心境なんでしょう?

於ありさ(以下、於):テレビドラマなどにも出ている芸能人同士なので、嫉妬の感情は沸かないですね。「浅香くんの相手トリンドルさんなんだ。最高じゃん!」という気持ちで見守っています。私は少女漫画系の映画に推しメンが出演している方が引っ掛かりますかね。あんまりキラキラしている性格の子じゃないのに、キュンとくるセリフを言っていたりすると、本人とのギャップが気になっちゃうんです。その点『わた婚』は素の性格や表情が観られるのでスッと入ってきて楽しめます。

佳香:『わた婚』はセリフなしで設定だけ与えられているので、本人たちの言葉で話しているから、ギャップをより感じないですよね。

於:芸能人同士のデートに密着するという番組といえば『恋するハニカミ!』(TBS)に少し近いような気もします。でも『わた婚』はそもそも夫婦という設定だし、同棲生活も送りますし、よりリアルさを感じますね。

ーー8月には手越祐也さんプロデュースの恋愛番組『君が決めた恋をした』がなんとYouTubeで始まりました。いままでの恋愛番組と違って、プラットフォームも芸能人プロデュースという点でも新しい番組です。

『君が決めた恋をした』(手越祐也チャンネル)
手越祐也がプロデュース&主題歌を担当する「恋愛番組×王様ゲーム」がテーマの新たな仕掛けが特徴の恋愛番組。

佳香:高校生の恋愛番組ってABEMAの『今日、好きになりました。』(以下、『今日好き』)が人気ですけど、「王様ゲーム」という心理戦が加わって新しい形になっていますよね。個人的には『今日好き』×『オオカミには騙されない』(ABEMA 以下、『オオカミ』)のような感覚です。

『今日、好きになりました。』(ABEMA)
“運命の恋を見つける、恋の修学旅行“をテーマに、現役高校生たちによる2泊3日の旅の様子を追いかける恋愛番組。

『オオカミには騙されない』(ABEMA)
真実の恋を求める男女が“共同作業”やデートを重ねて恋に落ちていくまでの様子を追いかける。しかしその中には絶対に恋をしない嘘つき「オオカミ」が潜んでおり、「自分の好きな人は“オオカミ”かもしれない……」という心理戦を含んだ恋愛模様が描かれる。

Numoto:出演者のみなさんもフレッシュですし、番組の設定や撮影方法など、恋愛番組としてのクオリティも高いですよね。

於:このクオリティをYouTubeでできるのは脅威。プラットフォームが動画配信サービスじゃなくてYouTubeというところで視聴者層にも変化がありそうですね。

ーー10月には過去に『恋んトス』(TBS)を制作していたチームが制作した恋愛リアリティードラマ『18禁の恋がしたい』がParaviでスタートしました。かなり複雑な設定ですがどういったところが見所なんでしょうか。

『18禁の恋がしたい』(Paravi)
「出演者の行動や会話は演技なのか?それとも本心なのか……?」“オトナの恋”に憧れる男女7人が、夜景ディナーやクルージングなど、オトナのデートを楽しみながら恋をしていく、恋愛リアリティショーならではのシチュエーションを恋愛ドラマとして描く。

佳香:ドラマのなかでは「演出で決まっている演技」と「自分の意思による演技」があるんです。視聴者はどこからが演技でどこからが本心なのかが明かされないままドラマを観て、番組の最後に種明かしされる。なので、もう一回ドラマの部分から見直したくなる構造になっていて、同じドラマを観るにしても違った見方ができるのは面白いですね。

 ドラマの演出も、好きな人に嫌いって言わなきゃいけないとか、本当はこの子が好きなのに他の子に告白させようとか、いろんなことが仕掛けられると思うので、観ていてハラハラします。『今日好き 秋月編』に出演していたゆりあ(神谷侑理愛)ちゃんも出ていて。

於:出演者の方々は意外と若いんですね。このタイトルだから大人向けなのかなと思ったら。

佳香:タイトルからアダルティなものを連想しますけど、若い子たちの思う「大人っぽい恋」をすることがテーマなので、このタイトルなのかと。

ーー12月からはNetflixで約20年に放送されていた『未来日記』が配信されるなど、“リブート”という新しい形式も出てきました。

『未来日記』(Netflix)
これから起こることが書かれている不思議な愛の日記「未来日記」が互いを全く知らない男女へ届けられ、そこには2人が恋に落ちていく未来と最後には“永遠の別れ”が書かれている。2人は日記に書かれている通りに行動し、そのなかで恋や愛は生まれるのか?を検証する。本作は1998年~2002年まで放送されていた『ウンナンのホントコ!』(TBS)内の企画。未来日記の脚本を内村光良などの番組出演者が手掛けたことでも話題となり社会現象に。今回はNetflixで現代版にアップデートしてリブートしている。

於:20年前『未来日記』が放送されていた当時は『あいのり』(フジテレビ)や『恋するハニカミ!』も人気でしたし、恋愛番組が盛り上がっていた時期ですよね。今は出演者含め作り込んだ作品が多いですが、昔はもう少し身近にいそうな人にフォーカスしたものが多かった気はします。

佳香:たしかにその時はSNSもなかったですし、いまでいう「インフルエンサー」のような、芸能人と一般人の中間くらいの存在がいなかったので、一般の人に振り切っていた感じはしますね。

Numoto:『学校へ行こう!』(TBS)でも2000年あたりに「東京ラブストーリー」という一般人の合コンやデートを観察するような企画をやっていましたよね。

ーー当時はSNSがないのに『学校へ行こう!』は一般の人の発掘がものすごく上手でしたよね。2000年代の恋愛番組や企画の盛り上がりから、2010年代は『テラスハウス』(フジテレビ・Netflix 以下、『テラハ』)がヒット。スマホ・SNSの普及もあり、そこから少しずつインフルエンサーと呼ばれる人たちの出演が増えていきましたよね。

『テラスハウス』(フジテレビ・Netflix)
「台本がない」という台本のもと、一つ屋根の下で複数の男女がシェアハウスする様子を記録したリアリティ番組。出演者に提供されるのは家と自動車だけで、共同生活でのルールはとくに設けられていない。恋愛をすることや、家を出ていく決断も自由。

Numoto:私はTikTokやYouTubeでカップルチャンネルをよく観るんですけど、恋愛番組に出ていた子も出演後に成立カップルでやっていたりするので、やっぱりいまはSNSでの発信力は必要なのかもしれないですね。視聴者として彼氏彼女に甘えているプライベートな仕草などが観られるのは嬉しいですし、それこそ「本当につきあっているのか?」という考察でも盛り上がりますし。

佳香:インフルエンサーだとカップルで推せるのはいいところかもしれないですね。芸能人同士だとスキャンダル絡みでなかなか難しいですし。『恋する週末ホームステイ 2020冬 Tokyo』(ABEMA)のゆきりり(原田夕季叶&森脇梨々夏)にはまってたんですけど、インスタライブ観たりして楽しそうだな~とか、自分の高校時代のことを思い出したりとか。

Numoto:私は『月とオオカミちゃんには騙されない』のそたりこ(曽田陵介&莉子) を応援していて、2人のSNSのやりとりとかすごい観てました!

於:韓国の「オルチャン」という言葉が流行ったときに「オルチャンカップル」をSNSで追いかけてました。韓国では、SNSでカップルが発信するということが日本よりも早い段階で流行していましたね。当時日本ではSNSでカップルが惚気ると「イタい」と言われる風潮がありましたけど、いまはコンテンツになってる。

佳香:昔はカップルについての情報を雑誌の「カップル特集」などでしか知ることができなかった。SNSが出てきたことで、個人でも発信できるようになったし、大衆化したことで受け入れられるようになったのかも。

ーー恋愛番組を観ることができるプラットフォームについてはどうですか?昔はテレビ、いまは動画配信サービスが主流ですよね。

佳香:いま地上波の番組でキュンとできる番組ってほぼ恋愛ドラマだけですよね。そしてテレビを若い子たちが観ないからそうなったのか、恋愛ドラマの内容も演じる俳優も年齢層が上がってしまっているんです。もう『今日好き』や『オオカミ』みたいな10~20代前半の子たち同士の恋愛は、地上波の恋愛ドラマでは観られないんですよ。

 最近だと『着飾る恋には理由があって』(TBS)や『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール』(日本テレビ)などは若手俳優で描かれていましたが、それでも年齢は20代中~後半。高校生、大学生くらいの男女の恋愛はSNSや動画配信サービスの方が豊富ですし、その流れで若手インフルエンサーを起用する恋愛番組も相性が良かったのかもしれません。

於:高校生の恋愛が描かれるものは映画が多いですよね。最近だと『ハニーレモンソーダ』『思い、思われ、ふり、ふられ』『午前0時、キスしに来てよ』など。地上波のドラマで評価を得ているのは『大豆田とわ子と三人の元夫』(関西テレビ)など、恋と仕事がセットになっているものとなると、テレビを観る年齢層は上がっている感覚はあります。

Numoto:高校生にとってはスマホが身近だから、テレビをじっくり観る習慣はきっとないんでしょうね。ドラマをみるとしても配信サービス経由になってきているんだろうな。

ーーそう考えると無料コンテンツって強いですよね。高校生はクレジットカードを持てないので自発的に観ようとなると、有料コンテンツは観られない。ABEMAの1週間無料やそれこそ手越さんのYouTubeは強いですね。

<SNSでのリアルタイム性があった『バチェラー・ジャパン シーズン4』>

ーー『バチェラー・ジャパン シーズン4』(以下、『バチェラー』)は『バチェロレッテ・ジャパン』に出演していた黄皓さんがバチェラーとして出演したことでかなり話題となりました。今シーズン、とりわけ議論されたのが「複数人とのキス」。みなさんこれについてはいかがでしたか?

『バチェラー・ジャパン』(Amazonプライム・ビデオ)
全米で話題となった「The Bachelor」を日本版にリメイク。独身男性・バチェラーが、複数人の女性たちと様々なデートを繰り返しながら、運命の相手となる最後の1人の女性を選ぶという婚活サバイバル番組。

佳香:個人的には黄皓さんだから許された部分もあると思います。主義主張が一貫していましたし、嘘もなかった。立ち回りがスマートだったからこそ出演していた女性たちも納得できて、視聴者としても批判するところがなかったですよね。次回から複数人とキスすることが許されるかと言われたら同じようにはいかないんじゃないかな。

Numoto:白川(理桜)さんへのキスのやりとりには誠実さを感じましたね。白川さんは恋愛経験ゼロという黄皓さんにとってはストッパーみたいな存在だったと思います。恋愛上手じゃない方も当然世の中にはいるわけで、その対応能力がすごい試されたと思う。

於:逆張りで「キスを絶対しない」という女性の方もいて、これまでみたいに「黄皓さんに好かれたいから行動する」という女性ばかりじゃないのも面白かったですよね。男性優位ではなくなったというか。

ーー黄皓さんも選ばれなくてはいけないということから、これまでにない動きや気持ちの変化を観ることができましたよね。キスだけでなくお泊まりの描写もされていましたし、かなりリアルなところまで観せていましたが、恋愛番組は今度そういった性の部分も隠さず伝えていくようになるんでしょうか。

Numoto:私はありだと思うけどな。結局その先どうなるの?というところはみんな言わないけど気になるところではあるし。『テラハ』もベッドシーンまではいきませんでしたけど、せいな(島袋聖南)さんとノア(石倉ノア)くんがキスしてホテルに行く描写はありましたよね。本当に恋愛する気があったからこその行為だと思うし、その後結婚もしてましたしね。

佳香:『テラハ』史上、唯一結婚したカップルですもんね。

ーー今回の『バチェラー』は配信コンテンツにも関わらずリアルタイム視聴している人がかなり多かった印象があります。Twitterなどでも配信後すぐに感想が溢れかえっていて、ネット上でみんなで議論し合う風潮がありました。

Numoto:誹謗中傷の懸念はもちろんありますけど、他人の感想ツイートは見ると面白いし、やっぱり共有したいと思う部分もあります。その塩梅が難しいですよね。

於:もちろんみんな感想を書きたい気持ちはありますよね。ツイートする人のなかには意図的に攻撃するつぶやきをする人と、いち個人の感想としてつぶやく人がいて様々です。攻撃的なものはもちろん今後あってはならないと思いますが、いち個人の発信までエゴサ(エゴサーチ)されてしまったら、書き方にもよりますけどそこはどうしようもないですよね。

Numoto:かといってSNSで盛り上がらなくても作品の良さが伝わらない。

於:あんな頑張ってプーケットまで行ったのに、1つも「面白かった」というツイートがなかったら出演者も制作スタッフも落ち込みますもんね。難しいです。

Numoto:『TERRACE HOUSE TOKYO2019-2020』に出演していたにいにい(新野俊幸)が黄皓さんのインスタグラムにコメントしているのを見ました。「俺は味方だよ」って。恋愛番組出演者同士で励まし合っている部分もあるだなぁと思いました。

引用元:https://news.yahoo.co.jp/articles/0c07b66c0b5da8cc69776654776d2c607aaf773d

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