線香の香り漂うお寺の本堂で「本気の婚活」…28歳男性は「真剣な人が集まる気がする」

 ヒノキの柱に囲まれた優しい雰囲気の本堂に、線香の香りが漂う。仏壇前に座った男女が、住職の唱える伸びやかなお経にじっと耳を傾けた。この「開会式」が終われば、さあ本番。結婚相手を探す本気の駆け引きが始まる。

 ここはお寺。1636年、伊達政宗が創建した保春院(仙台市若林区)で定期的に開かれている婚活イベントが、ひそかに注目を集めている。主催している「 吉縁きちえん 会」仙台宮城支部の事務局、住職の三浦真人さん(43)は「安心安全にご縁を結ぶことに注力している」。登録は無料で、イベントへの参加も男女とも実費のみ。参加者は毎回抽選になるほどの人気だ。

 元々、2010年に静岡県の臨済宗の寺で始まった活動で、全国に関東や九州など六つの支部がある。会員は約2万5000人、これまでに約1500人がゴールインした。宮城県内では17年から婚活イベントを実施しており、多い時には男女各80人を松島町の瑞巌寺で引き合わせたこともあった。

 「縁を結ぶ」ということで、イベントでは、水引作りを体験し、男女の距離を縮める。作り方が難しいため、会話のきっかけが生まれるそう。大和町の介護福祉士の妻(32)は「困っている私に声を掛けてくれた。優しい人なんだな」とこのイベントで出会った夫の人柄を垣間見た。結婚してもうすぐ3年目。2人の子宝にも恵まれた。

 三浦さんが参加者に必ず伝えるのは、「この中だけで結婚相手を見つけようとしないこと」。一つのことに執着すると、周りが見えなくなることもある。尊重し合える人と縁をつないでもらえるよう、干渉しすぎず、そっと見守ってきた。

 コロナ禍の影響で、イベントは20年春、中止に追い込まれた。しかし、活動休止を逆手にとって、ネット上で会員の男女がつながる仕組みを構築した。

お寺の本堂で婚活イベントを振り返る三浦さん(右)と沢石さん(昨年12月24日、仙台市若林区で)

 そして、約2年ぶりに保春院で開催したイベント。本堂には、マスク姿の男女がスマートフォン片手に、ウェブ上に登録した顔写真をお互い確認しながらおしゃべりする姿があった。会社員の沢石健輔さん(28)はやっと気の合う女性を見つけた。「マッチングアプリは手応えがなかったが、お寺だからかな、真剣で落ち着いた人が集まる気がする」

 なぜお寺がここまでするのか。「なぜでしょう。喜ぶ人の顔を見るとそれだけで苦労が報われます」と三浦さん。吉縁会で結婚した夫婦が時折、お寺の写経会に参加したり、お参りに来てくれたりすることがうれしくてたまらない。

 仏教には「和合」という教えがある。争いごとなく穏やかに生活していきましょう、という意味が込められている。「お寺には昔から地域の困りごとを解決する役割もあった。縁結びのお手伝いも今、世の中に必要とされている。縁をつなぐことを通して地域を元気にしていきたい」。お坊さんの温かい心意気が紡ぐ縁がここにある。(木村友美)

引用元:https://www.yomiuri.co.jp/life/20230104-OYT1T50048/

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